左手の薬指の第1関節と第2関節の間に、斜めに2センチを超える長さの傷跡があります。これは小学校4年のとき、父と一緒に麦を刈り入れているときに鎌で指を切ったものです。左手で麦の根っこから少し上を握り(鎌の刃が恐いからとあまり上の方を握ると根の方がばらついてあまりうまく出来ないのです)、その下に右手の鎌の刃を当てて力を入れて手前に引きます。このときうっかり刃が薬指の上に当たって、指を切ってしまったのです。かなり深く切って、骨は大丈夫でしたが傷口が大きく広がっいました。父は指の根元をしっかり握って止血をして、そのまま村のお医者さんのところに連れて行ってくれました。
お医者さんは傷口を2針縫ってきっちり傷口の手当てをしてくれました。それまでいたずら遊びで手足に怪我をしたことは度々ありましたが針で縫ったことは初めてで、針を刺したときその痛さは注射と同じ程度ではなかったかと思いますが、随分大きい声で泣いたことを思い出します。父は軍隊で使っている太い針だったから痛かったろうと慰めてくれました。その時の父の気持ちは、私が子どもを持ってから子どもの怪我の痛さより父の方がよほど痛かっただろうと推測出来るようになりました。
その傷跡はずっと残っていますが、指を使う上で差し支えはこれまでありませんでした。ただ、第2関節を曲げて伸ばすときに少し違和感があり、スナップアクションのように、少しずつ力を入れても動かなくて、ある程度の力になると急にカックンと伸びるのです。技術的にはこれは「遊び」というもので、自動車のハンドルに遊びがあることはよく知られています。全く遊びがなければ、例えばサーモスタットで温度をコントロールしているときに、温度が下ってサーモスタットが入るとヒーターが入ってすぐ温度が上る、そうするとサーモスタットが切れる、すぐ温度が下る、またヒーターが入るというように短時間に上ったり下ったりを繰り返すチャタリングといいますが、これは機器のために良くないので遊びが作ってあります。
この指の遊びはこれまで長い間何の支障もなかったのですが、ここ10年続いている三味線のお稽古で最近気になってきました。左の薬指は3本の糸を抑えるときにいつも使いますし、はじくのにも使います。また最初に調子を合わせたり、演奏途中で糸が伸びて音が下ったら左手でネジを巻いて音を合わせますが、そのとき結構強く握らなければならないので薬指も大切です。そのときこの薬指が痛くなって来て力が入らないのです。まあ練習のしすぎかも分りませんが、子どものころの怪我がこんなときに出てくるとは思いませんでした。整骨師に見て貰ったら、多分怪我のとき指の腱まで傷ついて、切れはしなかったものの力が弱っているから指を伸ばすのに滑らかには出来なくなっただろうということでした。プロではないから今手術して復元する気持ちはありません。まあわずかの不自由は我慢してお稽古を続けましょう。